平凡が一番難しい

小さな会社を経営していて感じることを、ぼそぼそと書いています。

電通のLSP制度が凄く画期的! だけど、ちょっと危惧するところがある。

 

広告代理店最大手の電通さんが、LSP(ライフシフトプラットフォーム)という、個人事業主制度を構築した事が話題になってますよね。

news.yahoo.co.jp

僕も、この記事が出た時には『体のいいリストラ』という思いが湧きました。

 

しかし、記事を読み進めて行くと、 ”流石は電通 と思う部分と、一部の内容では危険性を危惧する部分もあったので、書いてみたいと思います。

 

 

本当は誰の為のLPS制度なの?

電通の社員ともなると、仕事上で得られるキャリアやスキル、人脈は相当なものになろうかと想像できます。

事実、現在も社員でありながら、許可さえ貰えれば講演活動や執筆活動も可能との事ですが、この講演活動に関しても、普通の中小企業の一社員では到底頂けないお話ですし、執筆活動についても一般社員が書いても売れるのであれば、それは間違いなく電通のブランド力” だと言っても過言ではないでしょう。

 

その電通が、社員のセカンドキャリアを真剣に考え抜いたというのですから、このLSPという制度は相当に仕組まれた制度設計になっていると考えられます。

 

では、その制度とは一体どんな内容なのでしょうか。ちょっと見てみましょう。

 

 

電通側が説明する良い点の裏にある危惧

 

LPS制度の目玉が、何といっても ”基本給が受け取れる” という部分では無いでしょうか。

段階的に減らされるとは言え、10年間もの間支給されるのであれば、個人事業主としての収入の不安が、ある程度解消できるのはかなり大きいと思います。

 

しかも、独立前には専門家からアドバイスも貰えるなど手厚く、しかも金融機関も電通のLPSには好意的で、融資の面でも優遇が受けられると。

 

ここまで ”おんぶにだっこ” 状態で独立を支援してくれるのであれば、そのハードルはめちゃくちゃ下がりますよね。

 

実際に、内部の人間からは『エース級こそ抜けた』という話もあるほどだそうで。

 

仕事が出来る人ほど、この制度を活用している事が伺えます。

 

しかし、ここで一つ目の危惧が。

 

電通でのエース級” ともなると、恐らく相手は一部上場企業の大手を顧客にしていた可能性が高いのではないでしょうか。

そもそも電通は中小企業を殆ど開拓しておらず、電通側も今回のLPSが進むことによる期待の一つに『新しい仕事や中小企業への商圏の拡大』を挙げています。

 

しかし、そんなエース級が中小企業を相手に、数万円や数十万円の提案が果たして出来るのでしょうか?

 

一部上場企業の年間広告費は数千億円とも言われます。

 

数千億円掛けられるからこそ良いCMが出来ているでしょうし、数千億円掛けてショボいCMしか出来ないならとっくに電通は潰れてます。

 

しかも、そこで働くエース級の脳が完全に 電通脳” に侵されてた場合、

『いやいや社長。CMってのはこのくらいお金かけないと良いのができないんすよ。』

なんて、顧客とのニーズや金銭感覚の乖離が生じることだって考えられます。

 

そうならない為には、人生設計に関するアドバイスと並行して ”社長としてのマインド” もアドバイスする必要があると感じます。

 

このLSPを設計した担当者は

 人生の折り返し地点である50歳を過ぎたあたりから、業務上のスキルや知識の部分で“賞味期限切れ”になったと感じ、目標ややる気を失う人がいる。ただ、生活があるので、ふつふつとした思いを抱えながら、不本意な形で会社に残留する人は多い。

人生100年時代」などといわれるなか、「老後資金2000万円問題」が話題になったように、定年後の長い老後を安心して暮らすためには、会社にしがみつくだけではない、“攻めの選択”も必要になる。これまで培ったスキルや知識をアップデートし、自分自身の力で、活躍する場を切り開くことも考えなければならない。

 とあります。

確かに、スキルや知識は豊富でしょうし、それを活かして年収アップや活躍の場を広げる努力も必要です。

 

しかし、いくら個人事業主とは言え、多少は財務に明るくならないといけませんし、NH社(電通の子会社で、電通が受けた仕事を元社員の個人事業主に仕事を割り振る役目を果たす)から仕事が割り振られるとは言っても、自ら受注してくる部分も少なからず必要なはずです。

でなければ、わざわざ電通を退職する必要なんてそもそもありません。

(このNH社ですが、発想自体が ”流石は電通” といったところでしょうか。)

電通から請けた仕事をピンハネして下請けに回す。これは正に、今問題となっている雇調金の支給業務を下請けに丸投げしてるのと仕組みが同じですね。。

 

いずれにしても、逆に言えば10年後には基本給は無くなります。

その代わり、インセンティブの部分が大きくなると言っていますが、時間の経過とともに若い世代がこの制度を利用してどんどん独立してくることを考えれば、 ”お上からの安定受注” は期待しない方が良い様な気もします。

 

 

生かさず殺さず

 

ネットニュースの『戦略人事』の記事

www.itmedia.co.jp

にはこうもありました。

利益相反については、

博報堂ADKアサツーディ・ケイ)など、明らかに競合他社からお金が出るような仕事は受けないよう、各メンバーにはお願いする。ただ、線引きが曖昧な仕事もある。そのあたりは、NHと各メンバーとの間でコミュニケーションを取りながら判断することになる」 

 と。

僕はここがミソだと思っています。

 

個人事業主 でありながら、電通側に”受注制限” を掛けられているのです。

 

これってそもそも 独禁法

www.jftc.go.jp

に抵触しないのでしょうか?

 

①手厚い退職金に十分な基本給+インセンティブ

②仕事は電通直轄のNH社から十分に与えられる

③今まで開拓できていなかった中小企業への販路拡大

④元社員のスキルアップに伴い、本社にも還元される

⑤セカンドキャリアでも十分な収入を個人で獲得する為の仕組み

 

一見、非の打ち所がない、素晴らしい関係性。

 

の様にも見えますが、しかしそこは、電通さんです。

 

これだけ手厚くお金を支給しても、必ず将来には ”取り返す” 計算は絶対に立っているハズです。

 

『リストラは念頭に1㎜もない』

 

と断言していますが、”結果として” そうなってるのではないでしょうか?

 

絶対に無いのであれば、

①手厚い退職金や基本給、インセンティブはその額を低くする様に見直す

②10年とされてる基本給の支給期間を最長でも5年にする

③NH社からの受注量に制限を設ける

④競合他社からの受注もOKにする

 

事が何よりの証拠になると思います。

 

本当に、元社員のセカンドキャリアを思う一心で制度設計を行うのであれば、本来は3年以内を目途に、完全な ”電通頼み” から脱却させるように持っていくのが本当ではないでしょうか。

 

『石の上にも三年』と言われますが、逆に言えば三年経っても軌道に乗らない事業は見直しが必要です。

それに、普通の個人事業主であれば、三年以上も赤字を垂れ流せば廃業は免れません。

 

10年後には基本給を減らしてインセンティブを重視というなら、電通経由のインセンティブではなく、競合他社も含めた企業からの ”売上” を作れる体質にさせるべきです。

 

 

LPS制度のスタートと、電通本社ビル売却の噂。

 

本音が透けて見える気がしてなりません。

 

電通さん、偉そうな事書いてごめんなさい。

 

(※閲覧数は一日に40件程度の湿気たブログなので、拡散の心配はありません。)